
Gloria Estefanが歌う予定だった"Hero"
「希望を失っても、自分を見つめば強くなれる。だってヒーローは自分の中にいるんだから」と、「自分を信じればどんな困難な状況だって乗り越えられる」というポジティブな歌詞の内容が多くの人の心の支えとなり、コロナパンデミックで世界中が混乱していた2020年4月に、Mariah Careyが自宅で披露したことでも話題を集めた"Hero"。
'90年代に数多くのヒットを放ったMariah Careyの楽曲の中でも、特に人気の高い"Hero"は、全米シングル・チャートを制し、'94年ビルボード年間シングル・チャートで5位を記録、そして第37回グラミー賞で「Best Female Pop Vocal Performance」にノミネートされるなど、輝かしい評価を受けた楽曲。
実はこの曲は、元々Mariah Careyが歌う予定ではなかったとのこと。
"Hero"は、Mariah Careyが'93年に発表したサード・アルバム『Music Box』に収録された楽曲で、Mariah Careyをデビュー時から支えたロシア出身のプロデューサーWalter Afanasieffと、Mariah Carey本人が作詞作曲を担当。
Music Box
Mariah Carey
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Mariah Careyは、前作にあたる'91年リリースのセカンド・アルバム『Emotions』に収録された全曲の制作を自ら行い、結果的にアルバムが大成功したことからソングライターとしての評価も高まり、そんな矢先にMariah Careyの元へ舞い込んだのが、'92年公開の映画「Hero」のサウンドトラックへの楽曲制作依頼。

Mariah Carey自身、このプロジェクトに参加することはかなり前向きだったものの、しかしこの決断に待ったをかけたのが、当時のMariah Careyの婚約者であり、サウンドトラックのリリース元である[Sony Music]のCEOを務めていたTommy Mottola。
Tommy Mottolaは、この映画に参加することでMariah Careyのキャリアが傷つくのではないかと感じていたようで、また当時Mariah Careyが所属していた[Columbia Records]の関係者も、Mariah Careyが別レーベルに貢献することに不安を感じていたという話も([Columbia Records]は[Sony Music]の傘下レーベルで、同じグループ会社)。
しかし、Tommy Mottolaからの反対を受けた後もMariah Careyはこのプロジェクトへの興味を損なわなかったようで、この時はMariah Careyが書いた曲を、別のアーティストに歌わせるという条件で合意。
そのアーティストが、Gloria Estefanだったとのこと(Gloria Estefanは[Sony Music]所属アーティスト)。

Mariah CareyとWalter Afanasieffの2人は、Gloria Estefanに歌ってもらうことを想定し、米ニューヨークのスタジオにて約2時間で"Hero"の全体像を整えたようで、デモ音源が完成した際にその場に訪れたのがTommy Mottola。
頑なにサウンドトラックへの参加を拒み続けてきたTommy Mottolaは、このデモ音源を聴くや否や「この曲はあまりにも良すぎるから、映画用ではなくMariah Carey自身が歌うべき」という判断を下し、結果的に"Hero"はサウンドトラックへの収録は見送られ、Mariah Careyの曲として発表されたという流れ。
ちなみに、急遽空白になってしまった"Hero"の代わりの曲として、映画「Hero」のサウンドトラックに収録されたのが、Luther Vandrossが歌った"Heart of a Hero"だったとのこと。
Luther Vandross
Heart of a Hero
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