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執筆者の写真R&B SOURCE編集部

Ella Mai|ジョニー・ギルの「ある曲」をベースにして作られた"Boo'd Up"。


ella mai boo'd up

過去10年にブレイクした女性R&Bシンガーの中で最も成功したシングル


英ロンドン出身のElla Maiが2018年にリリースしたシングル"Boo'd Up"は、本国UKを飛び越えて世界規模で人気が広がった結果、全米シングル・チャートは最高5位を記録、そして第61回グラミー賞で「Best R&B Song」を受賞し、この曲に対して「Rolling Stone」が過去10年にブレイクした女性R&Bシンガーの中で、最も成功したシングルと絶賛。


「Boo」は「恋人」を意味し、曲名の「Boo'd Up」は「恋に落ちる、恋人になる」と言った意味合いで使われるとのことで、Ella Maiが歌う"Boo'd Up"は、「大切な人への想いが心を離れず、他の誰にも代えられない気持ち」を歌ったラブ・ソング。


「心の奥にあるこの気持ち。


本当の私じゃないみたい。


あなたと一緒にいると息もできない。


この気持ち、どうにかしてよ。


新しい人を見つけるまで、忘れられない。


あなたのように、私をハイな気持ちにさせる人は」


Ella Maiを世界的R&Bスターにした2010年代の名曲"Boo'd Up"ですが、この曲のトラックはJohnny Gillの「ある曲」をベースにして作られています。


Boo'd Up

Ella Mai



Johnny Gillの"There U Go"がインスパイア源


2018年にシングル・リリースされる前年の2017年、Ella MaiがリリースしたEP『Ready』の冒頭に収録されていた"Boo'd Up"。


Ready

Ella Mai

この時点ではまだMVも作られていなく、特別目立った楽曲という印象はなかったものの、『Ready』のリリース後にクラブ、ラジオ、SNSなどで徐々に話題となり、"Boo'd Up"のMVが作られた時点でその人気が爆発。


そんな"Boo'd Up"を手掛けたのは、以下6人のメンバー。


・Joelle James (Songwriter)

・Ella Howell (Songwriter)

・Dijon McFarlane (Songwriter)

・Larrance Dopson (Songwriter)

・Mustard (Produce)

・Dopson (Co-produce)


実は、ソングライターの1人であるJoelle Jamesが、2014年に自分用の曲として書いた楽曲こそ、Ella Maiの出世曲"Boo'd Up"。


Joelle Jamesは、2014年に"Boo'd Up"を制作した時の様子を、「The FADER」のインタビューにて次のようにコメント。

「Shawn Barron([Motown/Capitol Records]A&R担当副社長)が、少しの時間だけスタジオで作業する機会をくれたの。あれは私が1番好きな曲の作り方だったわ。スタジオには私とエンジニアしかいなかった。いくつかのビートを聴いた中で、その中の1つが私の心に刺さったの。Johnny Gillの楽曲をサンプリングした、私が書いたオリジナルの"Boo'd Up"。クラシックなR&Bサウンドで、あれは本当にR&Bマジックだったわ」

Joelle Jamesの心を動かしたJohnny Gillの楽曲とは、Eddie Murphy主演映画「Boomerang」のサウンドトラックに収録され、Babyface, L.A. Reid, Daryl Simmonsによって書かれた"There U Go"だったとのこと。


There U Go

Johnny Gill



恋愛のモヤモヤから偶然生まれた「Boo'd Up」というキラー・ワード


同じく「The FADER」のインタビューにて、どのようにして「Boo'd Up」という言葉が出てきたのか、Joelle Jamesは次のようにコメント。

「当時、私はある男性に自分の気持ちを伝えたかったけど、それが出来ない状況だったの。だからとても不安な気持ちだった事を覚えている。そんな状況に対して私が出来る唯一のこと、それが自分の気持ちを音楽にすることだった。だから"Boo'd Up"の歌い出しの『心の奥にあるこの気持ち。本当の私じゃないみたい』は、あの時に私が感じていた気持ちそのものなの。フックの部分も予想外だったわ。さっきも言った通り、私に与えられたスタジオでの作業時間が限られていたから、その時間内で良い結果を出して、価値あるものにしたかった。それで、ジャジーな感じのヴァイブでスキャットしていたの(主にジャズで使われる歌唱法で、メロディに合わせて「シュビドゥワ」「パヤパヤ」など、特に意味のないフレーズを即興で歌うこと)。」曲を作り終えるまで、自分が"Boo'd Up"って言ったのさえ気が付かなかったわ。その後、リリックを付け加えた方が良いかと思って何度か曲を聴き返したけど、やっぱり"Boo'd Up"っていう言い方が好きだったから、そのまま残すことにした。その時から、この曲が本当に特別な曲だって分かったわ」


Waleを迎えてリリースされる予定だった"Boo'd Up"


Joelle Jamesは米カリフォルニア州マリエータ出身、米国の名門音楽大学として知られるバークリー音楽大学を卒業後、YouTubeにAlicia Keys, Mary J. Bligeらのカバー曲を公開し、彼女の動画に食いついたのがあのChris Brown。


この直後に、Joelle JamesはChris Brownのレーベル[CBE]との提携により、[CBE]の親レーベルである[Interscope Records]と契約を結ぶことに。

Joelle James自身、元々ソングライター志望ではなかったものの、Chris Brownをはじめ、[CBE]在籍時に様々な作家やプロデューサーの元で作曲の手法を取得。


[CBE]はJoelle Jamesを「ホワイト・ソウル・シンガー」として売り出そうとしていたものの、結果的にこの時点ではアーティストとしての才能は開花せず、2015年に同レーベルから離れることに。


その後、"Boo'd Up"のデモ音源はリリース先を求めて様々なレーベルに渡っていき、この音源を気に入ったのが[Atlantic Records]の音楽プロデューサーMichael Carenと、ラッパーのWaleだったようで、WaleはJa RuleとAshantiの"Always On Time"のようだと表現していたとのこと。


Always on Time feat. Ashanti

Ja Rule

そして"Boo'd Up"を気に入ったWaleが、この音源に手を加えて仕上げていったものの、何故か音源ファイルが消えてしまい、最終的には[Atlantic Records]からはゴー・サインが出ず、"Boo'd Up"のリリース計画は白紙に。


Joelle Jamesは、自分自身が"Boo'd Up"を歌ってきたことから、とにかくこの曲に対して特別な想いを持っていたようで、作り手であるJoelle James自身の曲として形にする選択を優先してきたものの、曲自体のポテンシャルを信じて他のアーティストに歌わせることを決断。


この時点で、何人かのアーティストが"Boo'd Up"に興味を示していたようで、しかしJoelle Jamesとしてはとても高い基準を設けていたとのこと。

「私が歌わないのであれば、それは誰か特別な人でなければいけなかったの」

そして、Joelle Jamesはレコード・レーベルとのセッションを通じて、Ella MaiのメンターであるDJ/プロデューサーのMustardとリンクし、当時の様子を「Songwriter Universe」のインタビューにてJoelle Jamesは次のようにコメント。

「Mustardとセッションした際に、"Boo’d Up"を彼に聴かせたの。彼はすごく気に入ってくれて、"Boo'd Up"をすぐに使おうという話も出たわ。でも結局、この曲は1年半も手付かずの状態だった。その後、MustardがElla Maiと契約を結び、彼は私に『Ella Maiの為に一緒に曲を書かないか?』と連絡してくれたわ。 最初のセッションの日、私は彼に『Ella Maiに“Boo’d Up”を歌わせるべきよ』と伝えたの。彼女は新しくてフレッシュなアーティストだったから、この曲を歌うアーティストとして最適だと確信していた。そして、Mustardから『"Boo’d Upをレコーディングしたよ』と連絡があり、Ella Maiがスタジオで"Boo'd Up"を歌っている様子を送ってくれたわ。彼女はブリッジを追加して、"Boo'd Up"は彼女のEP『Ready』でお披露目された。その後、彼女はこの曲をセットリストに加えたツアーを行い、ファン達から素晴らしい反応を得たと聞いたわ。そしてElla Maiは、『みんな“Boo’d Up”が大好きなんだよ!信じられないくらいだよ』と興奮して話してくれたから、私は『そうだね、ビデオを撮って、この曲をもっとプッシュするべきだよ』と伝えた。そして最終的に、"Boo’d Up"はシングルとしてリリースされたの」


Chris Brown, JoJoらの楽曲を手がけてきたJoelle James

「ただスタジオに入ってレコーディングをするの。紙とペンは使わない。このやり方で上手くやれているから、他のソングライターと一緒に曲は書かないわ」

自身の作曲スタイルに強いこだわりを持つJoelle Jamesは、"Boo'd Up"以外にもMuni Long, JoJoらに楽曲を提供し、"Boo'd Up"を成功させた後にJay-Zのレーベル[Roc Nation]と作家契約を締結。


以下がJoelle Jamesがソングライトを担当した楽曲の一例。


・Tamar Braxton - All The Way Home (2013)

・Wale - Cliche feat. Ari Lennox, Westside Boogie (2019)

・JoJo - Gold (2020)

・Saweetie - Don't Say Nothin (2022)

・Muni Long - The Baddest (2024)


そして元々アーティスト志望だったJoelle Jamesは、[CBE]時代には達成できなかったアーティスト活動もスタートさせており、Mariah Carey"Honey"にインスパイアを受けた"Apply Pressure"などを発表しています。


Apply Pressure

Joelle James



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