Michael Jacksonの手にも渡った「史上最高のアルバム」
2000年8月、当時若干19歳という若さだったCraig Davidが発表したデビュー・アルバム『Born To Do It』は、Craig Davidの地元英国だけで200万枚近くを売り上げ、全世界で累計800万枚という驚異的なセールスを記録し、このアルバムが残した功績は次の通り。
全英アルバム・チャート
1位
全英R&Bアルバム・チャート
1位
全米アルバム・チャート
最高11位
アルバムのリリース後、Craig Davidは米国各地に点在する名門ライブ・ハウス「House of Blues」でライブを行い、この時Missy Elliott, Jennifer Lopez, Beyonceと言ったトップ・アーティスト達も会場に駆けつけ、そしてその中にはレジェンドStevie Wonderもいたとのこと。
当時の様子を、Craig Davidは「The FADER」のインタビューにて次のように回想。
「俺はHouse of Bluesで公演する為にロサンゼルスに行ったんだけど、初日はMissy ElliottとJennifer Lopezがいて、次の日はBeyonceがいた。彼女達がはっきりと見えたから、俺は考えたよ。『これは本当に現実なのだろうか?』ってね。そして3日目、俺は観客を見つめながら"Walking Away"を歌っていて、その時一瞬だけライトが点灯したんだ。そしたら、観客の中にはStevie Wonderがいて、俺に歌詞を返している姿が見えた。もう何も言えなくなったよ。ライブの後にStevieと会った時、彼は『君をQuincy Jonesに紹介したいと思う』って言ってくれた。Quincy Jonesは俺のアルバムを10枚買って、友人に配っていたらしいんだけど、俺は彼に確認しなくちゃいけないと思った。『友人の1人に…?』と聞いたら、彼は俺の言葉を遮ってこう言ったんだ。『そうだよ、Michael Jacksonは君のアルバムを持っているよ』」
Walking Away
Craig David
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レジェンド達が一様に認め、そして「MTV」も「史上最高のアルバムの1つ」と絶賛した怪物アルバム『Born To Do It』は、どのようにして生まれたのか。
そのプロセスを、『Born To Do It』のプロデューサーMark Hillが「Soul Culture」のインタビューにて次のようにコメント。
「私達には時間がたっぷりとあったから、創造的な自由が与えられ、プレッシャーも無かった」
Born To Do It
Craig David
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「マネージャーもレーベルも何も関与していなかった」
Mark Hillは、Craig Davidに初めて会った時の様子を次のように回想。
「私は、地元のバンドやミュージシャン達の活動をサポートする為に、サウサンプトンで小さなレコーディング・スタジオを経営していたんだ。私の友人が、あるプロジェクトのメンバーをスタジオに連れてきて、そのプロジェクトのリード・シンガーがAaron Soulというシンガーと、もう1人がCraigだった。当時、彼らは2人とも15歳で、この時に初めてCraigと出会ったんだ」
この時点では、Craig DavidとMark Hillはまだコラボレーションせず、その後Craig DavidはR&BグループDamageが'97年に発表した"I'm Ready"のソングライトを担当し、この時Craig Davidはまだ16歳。
I'm Ready
Damage
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そして、Craig DavidとMark Hillは数年ぶりにクラブで偶然再会し、この日をきっかけに2人の運命が大きく変わることに。
Craigと初めて会った時から数年が経ち、私とPete(Mark Hillと共にArtful Dodgerのメンバーとして活動していた人物)は地元のDJ達がプレイしていた楽曲のリミックスなどを作り、そして何かオリジナルの楽曲を作りたいという段階に達していた。ある夜、私達がクラブでDJをしていると、同じクラブでマイクを持ちながらDJをしているCraigを見かけ、彼のことを覚えていたので声をかけたんだ。
この時の様子を、Craig Davidは「The FADER」のインタビューで次のように回想。
「Markは俺に『曲は持っているのかい?』と聞いてきて、俺はこう言った。『メロディと歌詞のアイデアは持っているけど、曲は持っていない』ってね。そしたら彼はこう言ってきた。『私達は沢山の曲を持っているけど、トップライン・ライターがいないんだ。是非スタジオに来て欲しい』」
Craig DavidはArtful Dodgerのいくつかの楽曲でボーカルを担当するものの、当時のMark Hillらは金銭的に余裕が無かったことから、Craig Davidにボーカルの報酬を支払うことが出来ず、その代わりとして自身のスタジオをCraig Davidへ貸し出すことを提案し、この条件を受け入れたCraig Davidは与えられた「スタジオ時間」を利用して、後の名盤『Born To Do It』を生み出すことに。
アルバムに収録されたほぼ全ての楽曲は、Mark HillとCraig Davidの2人によって作り上げられ、サウンドのプロデュースをMark Hillが担当し、Craig Davidは歌詞やメロディを担当。
この時、Craig Davidはどこかのレーベルと契約する予定なども全くないフリーの状態で、この環境こそ『Born To Do It』が成功した秘訣だと、Mark Hilは次のように回想。
「『Born To Do It』を書き始めた時、レーベルやマネージャーも何も関与していなかった。私達はレーベルと契約する前、誰もいないたった2人だけの状態で制作に取り組み、そしてアルバムの大部分を書き終えていたので、それは非常に有機的なプロセスだった。後にレコード会社にデモを持ち込んで契約を獲得しようとした時、既に"7 Days"、"Walking Away"、"Time To Party"などは完成しており、この時の音源が最終的なバージョンとしてアルバムに収録されたんだ。そしてレコード契約を得て、アルバムは当然の結果となった。なぜなら、必要な素材は既に揃っていたからね。基本的に、レーベルが関与する前に私達は全ての苦労を経験しており、このやり方が成功の秘訣だと感じているよ。私達には時間がたっぷりとあったから、創造的な自由が与えられ、プレッシャーも無かった。もちろん、レコード契約が結ばれると状況は変わってしまうけどね」
Time to Party
Craig David
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Rodney Jerkinsも影響を受けた2ステップ
『Born To Do It』は[Atlantic Records]配給の[Wildstar Records]からリリースされ、同レーベルのオーナーであるColin LesterがCraig Davidと契約を結んだ経緯は、初めて聴いた"Walking Away"に感銘を受けたからだと過去のインタビューで語ったおり、またCraig Davidの自宅で埋め尽くされていた物を見て、その才能が本物だと確信したとのこと。
「彼の自宅を訪れ、床から天井まで12インチのレコードで部屋が埋め尽くされている光景を見て、彼こそが本物であり、ただの子供ではないと納得した」
この時点ではまだレーベルでの育成契約のみだったものの、後に"7 Days"を聴いたColin Lesterはこの曲がNo.1ヒットになると確信し、その日の内にアルバム契約を結んだとのことで、事実"7 Days"は全英シングル・チャート1位を達成。
7 Days
Craig David
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そして冒頭に記したとおり、『Born To Do It』は全英アルバム・チャートでも1位を記録し、しかもこの快挙を初週で達成してしまうという圧倒的な勢い。
プロデューサーのMark Hillは、このアルバムの成功要因は「制限の無い自由な環境下での制作」と振り返っている一方、当時の時流を的確にキャッチしたこともやはり大きく、それが'90年代後半に英国で大流行していた、規則的なビートの従来のダンス・ミュージックとは異なる、変則的なビートが特徴の「2ステップ」を取り入れた点。
『Born To Do It』は、Craig Davidが強い影響を受けたという米国R&Bの要素を感じさせながらも、主に2ステップにカテゴライズされることが多く、その象徴とも言える1曲が同アルバムからのファースト・シングルとなった"Fill Me In"で、この曲は『Born To Do It』が完成した後に作られた唯一の楽曲とのこと。
Fill Me In
Craig David
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2ステップを華麗に取り入れた結果、Craig Davidの名は「King of 2Step」という異名とともに世界中へと拡散されることになり、このサウンドに影響を受けた1人が、Brandy & Monicaの大ヒット・シングル"The Boy Is Mine"を手がけたRodney Jerkins。
彼は、Brandyのアルバム『Full Moon』に収録された"All in Me"で2ステップにトライしており、この曲を制作した時の様子を「MTV」のインタビューにてコメント。
「スタジオに入る度に、俺は色々なところを変えるんだ。トラックを作り、全てのボーカルを入れて、トラック全体を作り直す。All in Me"はこうやって生まれた。この曲には何か違った要素がある。なぜなら、バラードのような雰囲気を感じさせながら、同時にアップテンポにも感じさせる。曲の中間部分で、2ステップのグルーブに入る。俺はロンドンでこの2ステップを聴いた時、まだアメリカでは認知されていなかったけど『これはヤバイ』と思ったよ。その数ヶ月後にCraig Davidが出てきて、2ステップは大ヒットした。俺はこのサウンドを適度に取り入れたかったから、曲の中間部分に入れたんだ」
All in Me
Brandy
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